現在、新得農場で飼育されている牛は約100頭ほど。そのうち6割ほどの牛が毎日おいしいミルクを出してくれています。牛の種類は、スイス原産のブラウンスイスが中心(2017年末には全頭ブラウンスイスになる予定です)。足腰が丈夫で放牧に向いているブラウンスイスの乳質はチーズ作りに向いています。味にコクと甘みがあり、同量の牛乳からホルスタインよりも2割以上多くのチーズを作ることができます。牛も人間と同じで、ストレスのない環境では、よい働きをします。37haもの放牧地で過ごし、春から秋にかけて青草を豊富に食べた牛のミルクは、長期熟成タイプのチーズに適しています。雪が深い冬は環境の良い牛舎で過ごし、夏の間に丹精込めて収穫した牧草などの自給飼料が主な餌になります。この季節の牛乳は乳脂肪が高くソフト系のチーズはクリーミーな味わいに仕上がります。本来、牛は20年以上生きる動物。4、5年で牛を使い捨てにするのではなく、少しでも長生きできる自然体の飼育を心がけています。
チーズを中心とした私たちのものづくりは、新得の大地を基盤に微生物から牛、そして人間までを貫く自然エネルギーの流れに忠実であることを大切にしています。そのエネルギーとは何でしょう。人間はそれを、例えば微弱な電気としてとらえることができます。
私たちの牛舎は木造で、鉄骨が使われていません。そして牛舎の床下には、大量の粉炭が埋められています。これらはすべて、この土地のエネルギーのめぐりを遮さえぎらないための方法です。
大地とそこに交わる水や風、そして光は、場の有機物の循環とエネルギーの流れを生み出します。西を日高山脈、北を大雪連峰の山々に囲まれ、南東に十勝平野が広がる新得のような地形は、西から来る大地のエネルギーと、太陽の恵みである“陽”のエネルギーが十文字に交わる「ひだまり」をつくります。さらにこの地は十勝川の最上流であり、最も自然のエネルギーに恵まれたところであると考えられます。
「自然と一体になっている方が、高い質を作り出せる」。
私たちは経験的にそのことを知っています。だからかたくなに殺菌や無菌をめざすよりも、微生物によって微生物をコントロールすることの方が自然なのです。命あるものが必要とする最も基本的なことを尊重しながら、機械を主役とするものづくりよりも、微生物をじゃましない、機械に頼らないものづくりへー。私たちは産業革命以前の古いにしえの教えや伝えを現代科学の目であらためて探求しながら、すべての生き物を共振させる「自然の摂理のままの酪農」に取り組んでいます。