ル・ドメーヌ・ママルタは、ピレネー山脈とスペインにほど近い、地中海に面した小さなドメーヌです。美しい風景のなかで、可能な限り環境に優しい農業を追求しながら、極上のブドウの収穫を志す実直なオーナー、それがマルク・カスタンです。
祖父の農地を継いで村の農協のブドウ生産者となった彼でしたが、集約農業に見切りをつけるのにそう時間はかかりませんでした。2009年になると、ブドウ畑に新たに命を吹き込むことを目標に、自分のドメーヌ を設立したのです。
こんにち、約14ヘクタールのドメーヌは、オード県のラ・パルム村とルカト村の間に位置しています。池のそばにはガレ・ルーレ土壌(galets roulés:丸い石がゴロゴロと多い土壌)が、そして地中海側の斜面は石灰岩土壌と、多様なテロワールが特徴のドメーヌです。収穫量は非常に少ないのですが(1ヘクタールあたり8ヘクトリットルから30ヘクトリットル)、それは、ドメーヌの実に70%のブドウ樹が「ゴブレ(Gobelet)」型に剪定されているのが理由です。その形状は、すぼめた手やヒトデを思わせる姿で、伝統的なT字型のギュイオ(Guyot)やコルドン・ドゥ・ロワイヤ(Cordon de Royat)の剪定とは異なります。ゴブレの剪定により内部が空洞となることで、そこに熟れるブドウの房を太陽から守ることから、暑くて乾燥した気候に適した剪定です。
セパージュはカリニャン・ノワール、カリニャン・ブラン、ムールヴェードル、シラー、グルナッシュ・ノワール、グルナッシュ・グリ、マカブ―、そしてミュスカ・プティ・グラン と、こちらも多種多様。ひとつのパーセルに複数のセパージュが植えられているのは、昔のブドウ栽培の慣習にちなんだものです。当時、ブドウ樹が死んでしまった場合に、ブドウ樹の列にそのまま穴を空けておくことはせず、早急に別の品種を植えていました。マルクはできる限りこうした伝統やテロワールの多様性の尊重を目指し、パーセルひとつにつき1つのワインのみ製造しています。つまり、1つのブドウ畑には1つのワインしか存在しません。そのような理由で、マルクのキュヴェは、複数のセパージュのアサンブラージュにより造られています。
ブドウ畑では、マルクは土壌に命を再び吹き込むこと、そしてこの地方の動物や植物の生物多様性を尊重することに注意を払っています。そのためにブドウ畑の周囲には様々な植物が植えられ、パーセルの整備や草むしりで取った植物を使って自然肥料を作っています。また、マルクはバイオダイナミックに非常に近い農法を採用し、カモミールやイラクサ、タンポポ、ラベンダー、ローズマリーといったハーブの煎薬を散布しています。
公式に「ビオロジック農法」認証を受けているマルクですが、新たな「アグロエコロジック」農法への挑戦により、さらなる高みを目指します。単一の植物しか扱わない上、人間が肥料を土壌に注入する集約農業の正反対に位置するのが、アグロエコロジックです。
ドメーヌ・ママルタでは、生きた土壌こそがブドウ畑を育てるだけでなく、そこに咲く花や、生息する鳥、キツネといった生物にも命を与えると考えます。そしてドメーヌで生きる命のひとつに、マルクご自慢のハイランド牛たちの姿も。「トンドゥーズ(草刈り機)」の愛称を持つ10頭以上のハイランド牛と2頭のロバは、数年前から文字通りドメーヌの草刈りを担っています。冬はブドウ畑に、夏は野原に息づくこの小世界は、土壌に命を与え、ワインに力強さを与える「金鉱」と言っても過言ではないでしょう。